Mira&Luna's nursery lab

旅乙女と発明娘の子供部屋

くたくたになって心細い気持ちになったその先に……。

フランスを自転車で旅します。 f:id:miraluna:20200521165626j:plain:w220
                             現在地
<12日目>

 Luna

大きな港町 "ラ・ロシェル" を出発して海沿いを南下します。雨に降られたりおいしいパン屋さんでお昼ご飯を食べたり。入り海の北側へと辿り着いた私たちは、渡し船のある町ブレイユへ向けて自転車を走らせました。真っ白い崖のある山と谷の地域で泊まるところが見つからずにもうくたくた。体は疲れて心細い気持ちになっていた長い長い一日の終わりに私たちを待っていたのは……。

☆ ラ・ロシェルからモンターニュ=シュ=ジロンドへ
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カタリは言ったわ。「肉料理にナイフを入れるときも、木陰の休憩でそよ風に吹かれたときも好きだけれど、こうして宿やテントで地図を広げるときが好きだ。ロマンのときだ
私たちの日々の中で価値あるものは数あるけれど、お墓までもっていきたいほどの価値あるものはそれほどたくさんはないと思うの。
ようやく手に入れたあんなものも、偶然の幸運で得られたこんなものも、苦労してやっと買ったそんなものも、死ぬまで持っていたいかというとそうでもない。人生最後の瞬間にもっていたいものは、あんなものでもこんなものでもそんなものでもないはずだわ。
だったら、何がこの人生において価値あるものなの?


さて、何でしょう?

あなたなら「何」が人生において価値あるものですか?

私はまだ知らないことが多すぎて、経験したことのないことが多すぎて、はっきりしたものはまるで見えないけれど、ロマンを感じているときの人の目は価値ある何かを見ているのでしょうね。
そんなことをふと思った出発の朝でした。


☆ 朝の港町
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早朝。テントをたたんで港のキャンプ場を後にします。お世話になりました。
昨夜はあんなににぎやかだったのに、朝の港はとても静かでした。雨も上がって清々しい空気。気持ちの良い旅立ちです。


☆ ラ・ロシェルの港
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ラ・ロシェルの町は大きくて、中に入るときは郊外から中心部までが長かったの。だから出るのも大変なのではとちょっと心配していたんだけれど、思っていたよりもすんなりと抜けることができて迷うこともなかった。良かった。

モーターウェイを自転車は走ることができないから、モーターウェイにぶつかったところから海辺の小さな村を通ります。
小さな村では集会所や教会前で開かれる朝市が大きなイベントみたい。村の人たちが集まってきて早朝に収穫した野菜なんかを交換していました。きっと村人同士が顔を合わせておしゃべりしたり笑い合ったりする大切な出会いの場なのでしょうね。昔も、今も。


☆ ラベンダー香る村のメインロード
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村々からロックフォート(Rochefort ロシェフォール)へと続く自転車道を見つけました。
自転車旅の人たちをキャンプ場や観光地などではよく見かけるのですが、普段の道ではあまり多く見かけません。でもこの自転車道では何組かの旅人たちとすれ違いました。自転車の旅路として有名な道なのかしら? そして雨が降り出しました。

☆ 村を抜けると人里から離れる。
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雨は気分をどんよりとさせます。

雨の旅路にも楽しさはたくさん隠されているのですが、旅の途上で体や荷物が濡れるということは、シャワーや着替えが確保されている家の生活と違って危険もはらんでいます。
私たち旅人は天気の変化に敏感で、経験を積んだ旅人ほど早めに対策をとるようになります。雨装備は雨を防ぎますが、熱や汗をこもらせるので必要最低限にするようにします。雨が降ったり止んだりするような天候では、面倒でも繰り返し着脱します(実際は雨装備のままというときも多いですが)。このときの天候も雨と曇りを繰り返す天気だったので、何度もレインウェアを着たり脱いだりしました。

☆ 大きな橋
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やがて大きな橋の架かる川に差しかかりました。
また大きな橋。
3日前に越えたサン=ナザレの大橋が思い出されます。怖かったな。また怖い思いをするの、やだな。
でも越えていかなければ、他の道まで大きく迂回しなければいけないし、迂回してもまたそこに大きな橋が架かっているかもしれません。
旅路の障害は、越えて行くのが最善の策です。

私はカタリの背中を追って、勇気を出して橋を登りました。
橋は大きくて道幅は狭かったけれど、サン=ナザレでとても怖い思いをしていたせいか橋の規模が小さかったせいか、今度の橋はへっちゃらでした。
怖いことも、いやなことも、越えていくのが最短・最善の方法です。それは旅路でも、旅路でなくてもね。

☆ 橋の上からの風景
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ロシェフォール(Rochefort)の町まで雨。この町は中心へは行かずに通り過ぎました。ロヤン(Royan)の町を目指します。
町を過ぎるときにパン屋さんに人々が集まるのを見かけました。フランスでよく見かける光景です。フランスでは教会や市場や広場よりも、パンが焼きあがったばかりのパン屋さんにたくさんの人々が集まるように思います。朝と昼と午後に焼くのでしょうか。パンの焼けるいい匂いがすると、人々がバゲッドを何本もかかえてつまみ食いをしながらパン屋さんから出てきます。みんなパンの焼ける時間を知っているようです。
そう、みんなつまみ食いをするんですよ。腕に抱えた紙袋からも、レジに並んでいる最中にも……。焼きたてのパンっておいしいものね。


☆ 川辺で休憩
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ロヤンの町へ向けてモーターウェイ沿いの村々を通りながら進みます。
途中で草競馬場のような広くて寂しげな公園のベンチで休憩して、少しだけお昼ご飯を食べました。少ししか食べなかったのは、スーパーに出会えることを期待していたからです。スーパーがあれば美味しいものが買えるから。
でも村から村へと通る道にはスーパーマーケットはありませんでした。諦めて携行食糧を食べようかと相談していたら立派なパン屋さんが道沿いにありました。お昼ご飯はパンにしましょう!

☆ 村のパン屋さん
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お昼を少し回っていたのでお客さんは多くはなかったけれど、この静かな小さな村でもパン屋さんにだけはバゲッドを入れるための籐で編んだバスケットを持った人たちが集まっていました。
私たちもパン屋さんのパンを買ってお昼ご飯。ベーコンとチーズを練り込んだパンがとっても美味しかったです。この日は土曜日。休日のお昼の味がしました。

☆ フランスの田舎の村
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「町」っていう言葉も好きだけれど、「村」っていう言葉が好き。
日本では「村」そのものが少なくなったし、今では村にもコンビニエンスストアなんかがあって、町から遠く離れて十数件の家が集まる共同体のような所はあまりないでしょう? 近所で力を合わせなくてもお金と車と健康な体があれば生活していけるような環境の所がほとんど(だと思う)。
「村」という言葉には現代日本ではあまり見かけない、地理的な「生活共同体」の意味を感じるの。一緒に生活する仲間、というような。
もしそこで悪意が力をもったら「村八分」や「悪代官」のような悪がはびこることにもなるのでしょうし、村人同士の仲が悪かったら窮屈にも感じるでしょう。でももし善意ある人々が共に支え合って暮らしていくような生活共同体になったとき、そこには素敵な生活が生まれると思うの。絵本や昔話に出てくる幸せな村や、ピーターラビットの世界や、ムーミン谷みたいに。
「村」という言葉には、そんな素敵な善意ある生活を感じるのだけれど、それって私の誇大妄想かしら?


☆ 雨上がりの旅路
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雨が上がりました。

雨が上がると気分もすっかり晴れやかになります。
この晴れやかな気持ちは、雨が降ったからこそ味わえるのね。


☆ ロヤンの町へ
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ロヤンの町に到着しました。

この町から入り海を渡る渡し船が出ているはずですが、私たちは次の渡し船の町ブレイユから南側へと渡る予定です。

ここまでスーパーマーケットがなくて、食糧も少なくて、しかも明日はスーパーの閉まる「魔の日曜日」なので心配でした。でもこのロヤンの町でついにスーパーに出会うことができました。良かった。今日と明日の分の食糧と、予備食・非常食を買い込みます。

☆ 船着き場近くのビーチ
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船渡しを見てみようと渡し場へ向かうと、車が長蛇の列を作っていました。長蛇の列は渡し場の前だけではなく、ロヤンの町の海沿いの道をぐるっと回って2kmくらい続いていました。私たちは自転車なのでその横をすいすいと進んだのですが、高速道路の渋滞と違って次の便まで列は動きません。人々は車から降りてお菓子を食べたりおしゃべりしたり、割り込んだ割り込んでないで言い争いをしていたり、ボンネットに寝転がってお昼寝したりしています。あまりにも混雑しているので、警察もパトカーを出して交通整理をしていました。
対岸は見える距離だったので30~40分くらいで渡ることができるでしょう。渡し船は少なくとも2艘以上いたけれどそれほど大きくはないので、この様子だと列の後ろの方の人たちはこの日のうちに渡ることができなかったんじゃないかしら。


☆ 大きなヨットハーバー
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ロヤンを抜けてしばらくビーチ沿いを走ります。アップダウンがあってチェーンの具合はあまりよくありません。歯飛びがあって心配です。

☆ 開けた土地を走る
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ビーチ沿いの道を抜けて開けた田舎道へ。
空は晴れて気持ちが良いのですが、体はくたくたです。

☆ きれいな丘の続く土地 
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2つのキャンプ場を通り過ぎました。私はシャワーの浴びることのできるキャンプ場に泊まりたかったのですが、カタリは野宿を考えていました。この日は意見が分かれました。

☆ 海に張り出した要塞のある町
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☆ 白い崖
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見えますか? 写真左のほう。白い崖があります。どうしてあんなに白いのかしら。この辺りでは有名な崖だそうです。
畑と入り海の間の素敵な道を進みます。でもやっぱり体はくたくたです。

☆ ぐったりひまわり畑
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今の私の体と心みたい。
ぐったりで、一緒にいるのに一人みたいに心細い。

☆ こんなにきれいな土地なのに
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どんなにきれいな風景も、どんなに心躍る光景も、体や心が疲れているときには灰色に見えることがあります。
いつでも強い心がもてたらいいのにね。

この日は走行100kmを越えて、私たちは眠る場所を探しました。
初めは丘の上に探して、次は林と農地の中に探しました。でも野宿に良さそうな場所が見つかりません。

私たちはどこへと向かうのでしょうか。ここのところ雨にも降られ、しばらくベッドで眠っていません。つい弱音を吐いてしまいます。
この先、私たちの旅はどこへと向かうのでしょう?
心がなんだか弱くなって、空を行く飛行機を見ては日本の生活を思ったりしていました。


☆ 美しい村
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それでもやっぱり目に映るものは美しくて、前に進む力がなくなることはありませんでした。

☆ 海に面した深い谷のある土地
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この辺りは海の近くにいくつもの深い谷があって、風光明媚な土地でした。もしここが薄汚れた町の裏通りみたいな場所だったら、きっと私は泣き出してしまったに違いないでしょう。
きれいな谷と丘と海が、私を肯定的な気持ちにさせてくれました。

☆ 丘と丘と谷と
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雨と海の浸食でできた丘と谷なのかしら?
もしかしたらあの白い崖は石灰岩のようなカルシウムを多く含む岩で、この辺りは水に浸食されやすい地質なのかもしれない。貝やサンゴが堆積するような、恐竜時代の海の底の地層なのかもしれないわ。

疲れた頭はぼんやりとして、そんなことを考えていました。


☆ 村の岐路
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ぼーっとなっていた私にカタリが声をかけます。
ルナ、キャンプ場がありそうだ
思わず「えっ!」と歓喜の声が出てしまいました。

そこは小さいけれど人の往来のありそうな小さな村で、丘の高台にありました。
別れ道の標識に「Camping」の文字が!
村の中の谷を下っていくと、その先にあったのは静かなキャンプ場。
小さなオフィスへ行くと天使のような明るくてよく笑う女性が迎えてくれました。
ああ、良かった。今夜はゆっくり休めそう。

明るい女性はとても親切で、私たちはとてもリラックスすることができたの。本当にへとへとに疲れて心も弱っていた私にとって、ここは心から安堵できるキャンプ場でした。カタリは6.22€。なんと私は1€! いいのかな。

☆ 素敵なキャンプ場
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私があまりにぐったりしていたので、シャワーを浴びている間にカタリが買い出しに行ってくれました。どうやら近くに商店かスーパーがあったようで、たくさん美味しいものを買ってきてくれました。

この日の走行距離は124.36km。温かいシャワーと美味しい夕飯が染み渡ります。

カタリは夕飯の後、同じキャンプ場の少年たちに声をかけられて仲良くなっていました。地図を広げて輪になって旅の話をしていたようですが(カタリはフランス語を話せず、少年たちは英語をまだ学習してはいないようでしたが)、私はテントに横になっているときに眠ってしまいました。


☆ 月明かりの港
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夜、月明かりに目が覚めたのでトイレへ行くと、キャンプ場の眼下にヨットハーバーのような小さな港が見え、月明かりを映していました。

小さな村だけれどキャンプ場や商店があって、港があって、私たちの使っている地図(フランス全図)にも載っているくらいなので、観光地として有名な場所なのかもしれません。
このキャンプ場に泊まった日本人は私たちが初めてだと、キャンプ場の女性は言っていました。


この日は私にとって苦しい一日だったけれど、最後には天使のような笑顔の女性に迎えられ、素敵なキャンプ場に泊まることができて幸せ。
この幸せな気持ちは、今日一日が苦しかったからこそ得られる感情なのね。


でもやっぱり、この頃から私の心に疲れが出始めていたと、後になってカタリは言っていました。

それをなんとかするために、次の日カタリは旅の針路を意外な方向へと向けることになります。それが結局私たちの旅路の大きな転機となったのですが、それはまた次回。

               ☆明日へつづく

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