Mira&Luna's nursery lab

旅乙女と発明娘の子供部屋

巡礼の旅路を踏み出します。そして巡礼者たちとの初めての出会い。

フランスを自転車で旅します。f:id:miraluna:20200521165644j:plain:w220
                             現在地
<14日目>

Luna

ここのところ心も体も元気がなかった私を見かねて、カタリが新しい旅の目的をもたせてくれました。その目的とは、巡礼地サンチアゴ=デ=コンポステーラを目指すこと。私たちはブレイユの町から巡礼路に乗り、ボルドーの街で巡礼宿に泊まりました。宿では巡礼者の証を発行してもらい……。そう、私たちは巡礼者ピルグリムになったのです。今日から巡礼路を辿る旅が始まります。まるで新しい旅に出発するかのような、新鮮な気分です。

☆ ボルドーからムステーへ
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昨夜はなんだか興奮して、すぐに寝付けませんでした。新しいことが始まったような、新しい何者かになったような、胸がわくわくする思いでした。

私たちはピルグリムになったのです。

でも、カタリは言っていました。
「巡礼の道を辿るのは本来の目的ではなく、旅の一部分である必要がある。あのクラウンが言っていた『俺たちはどこへだって行ける』という言葉が象徴しているように、この旅は自由な旅だ。
僕らは自由の中で今、巡礼路の旅を求めているのであって、決してそれに縛られたり、固執しすぎてはいけない」と。
巡礼路を辿ることになったきっかけの一つは、私の心が弱まったということにあります。だから巡礼路を旅することが負担になったのでは本末転倒、この新しい目的を遂げるために無理をする必要はない、ということをカタリはきっと伝えてくれたのだと思います。
辛かったらやめたっていいんだ、って。
でもこの巡礼の旅は結局、私たちに素晴らしい経験と明るい気持ちと旅へのさらなる憧れをもたらしてくれることになったのですけれどね。

☆ 初めて泊まった巡礼宿
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朝、いつものように旅の準備をして、自転車に荷物を積みます。
誰もいない巡礼宿にお礼の置手紙を残して、私たちは出発しました。

まずはボルドーの中心街を目指します。

☆ 公園広場の巨大なモニュメント
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ボルドーの街は大きくて立派です。
昨日はくたくたに疲れていた上に宿が見つからなくて不安な気持ちでいっぱいでしたが、こうして落ち着いて見てみると本当にきれいな街並み。
古くて大きな石造りの建物がたくさん並んでいます。

☆ ボルドーの街
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しばらく街の中を見て回ります。
涼しくて過ごしやすい空気。今日は一雨来るかもしれません。

☆ 街の城門
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広いボルドーの街を抜けると修道院のような建物がありました。

中は静まり返っていて、一人の掃除夫が働いていました。

どうやらここも巡礼宿のようです。
巡礼宿は「Gîte」(ジトゥ? ジト? 何度聞いても何度教えてもらっても発音が難しくて覚えられないの)と呼ばれていました。「簡易宿泊施設」「安宿」というような意味で、巡礼宿に限らず使われている名前です。スペイン側の巡礼路に頻繁に登場するスペイン語「アルベルゲ」と同じような意味。
中世の頃の姿は、かつての日本の「木賃宿」のような存在だったのかもしれないわね。

☆ 修道院のようなGîte
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Gîteを通り過ぎると、道は小さな町と森の地域へと入っていきます。

私たちは巡礼路がどのような姿をしているのかを知らない
ので、森へと延びる小さな小道を「これかな? あれかな?」と横目に見ながら自動車道を進みました。

☆ これが巡礼路かな?
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☆ それともこれかな?
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☆ この道かもしれない。
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そうしてきょろきょろしながら走っているうちに、予想通り雨が降り出しました。
日本の夕立のような激しい時雨です。

一回目は木陰で、二回目はバス停でやり過ごしました。そのときにバスが来て、運転手さんが「乗るの?」という仕草をしました。運転手さんは私たちが雨宿りをしているだけだということも分かってくれていたようで、私たちが首を横に振るとにこっと笑って走り去っていきました。
その笑顔には「ボン・ヴォヤージュ」と書かれていました。

時雨は三回ありました。
三回目が一番激しくて、このときは大きなカエデのような並木の下でやり過ごしました。並木は、初めのうちはよく雨を防いでくれたのですが、やがて葉っぱから雫が滴り落ちるようになってきたので、雨が弱まったときを見計らって出発しました。
ほんの10分くらいの時雨でしたが、雨宿りしなければきっと全身ずぶ濡れになっていたと思います。

雨の後には南の空に光のカーテンがかかりました。雲間から射す光はまるで天使が降りてきているかのよう。
光が北側なら、きっと虹が出ていたことでしょう。
暗く冷たい雨の後には、いつだって光が現れます。

☆ 分岐の小さな町
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やがて小さな町に差しかかったときにスーパーの看板を発見しました。
分岐した道を3kmほど進んだ先にあるようです。
少し距離はあったけれど、ちょうどお昼時で私たちのお腹の虫たちが騒がしかったのでその標識に従いました。
町から離れ、森の中の広い道を進むと2軒の大きなスーパーマーケットがあり、私たちはそこでお腹を満たしました。
この幸福感のためなら、片道3kmの寄り道くらいへっちゃらです。

☆ 植林の森「ランドの森」
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昨夜お世話になった墓守の神父さんが言っていました。
ボルドーを抜けると広大な松の森に出る。まっすぐに伸びる松林が素晴らしく美しいぞ」って。そしてこうも言っていました。「その森はかつて何度も大きな山火事に遭ってきたんだ。そのたびに人々は松の木を植え直した。火を使うときにはくれぐれも気を付けなきゃいけないよ」

ここランドの森のほとんどは植林地で、特異な歴史をもつ森だそうです。かつては湿地の広がる土地で、竹馬で生活する羊飼いたちの土地だったそうです。竹馬で生活するなんて、驚きですよね!

同じ時期に人の手によって整然と植えられた同じ種類の松が広い森を形成しています。
雑木林とはまた違った、不自然な美しさが魅力的です。神父さんの言っていた通り、とてもきれいな森。
その森の中を走ります。


☆ 巡礼路の標識(サイン)
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私たちは今夜の宿について、今朝ボルドーの巡礼宿に置いてあったノートで調べていました。
まずはMuretという村の役場を訪ねると、昨夜神父さんから聞いた通り、役場でも「巡礼者の証」にスタンプを押してくれました。
職員が二人だけの小さな役場で、2kmくらい離れたところにあるLilaireという集落の巡礼宿をとても丁寧に教えてくれました。今朝、宿のノートに載っていた巡礼宿です。
巡礼宿は林の中の土の道を進んだ先の集落にあり、農家のようでした。
私たちは広い敷地内にずんずん入っていきました。家の中からは声がして、扉は半開きになっています。木造りの家で、インターホンなどはありません。初めはノッカーを鳴らしていましたが誰も出てこず、カタリが家の中に向かって何度も大きな声で呼んでも出てきません。仕方がないのでカタリは扉を開けて家の中に入って声をかけました(私は外で待っていたけれど…)
すると男の人が奥から出てきました。今夜はここに泊まることができると期待したのですが、男の人は「今は宿をやっていない」と言いました。どうやら泊まることはできないようです。
男の人はどこかに電話をかけてくれて、カタリが電話を受けました。電話の相手はこの家の家主とのことです。
どうやら家主は夏のバカンスに出かけていて、この先30日間くらいは留守にするそうで、その間この優しい男性一家に家を貸しているようなのです。だから巡礼宿もお休みなのだそうです。
電話の向こうの家主さんは英語が話せて(親切な男性は英語はあまり話せませんでした)、カタリに次の巡礼宿を勧めました。「そこは良いところだぞ」と言っていたそうです。でも巡礼路の地図がなければ、巡礼宿を見つけるのは難しいでしょう。それでも教えてもらったムステー(Moustey)の村は通り道でもあるので、私たちは先へと進むことにしました。
「電話口の向こうでバカンスの香りがしたよ」とカタリは笑っていましたっけ。

☆ Muret村にある古いチャペル
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☆ ランドの森を抜けるまでの巡礼路の地図
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今夜は巡礼宿には泊まれないだろうと、期待半ばで旅を続けていくうちにやがて旅路はムステー村へと入っていきました。
村の中心と思われる辺りにはMuretと同じような古い礼拝堂がありました。これはもしかしたら宿が見つかるかもしれません。

☆ ムステー村の古い教会
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教会に入ると二人のおばあさんがおしゃべりをしていました。土産物をたくさん並べて、まるでバザーのようです。入口にスタンプがあったので「巡礼者の証」を見せると、スタンプを押してくれました。Gîteの場所を尋ねると、ここから1kmのところに小人がかぶる三角帽子のようなものがあると教えてくれました。彼女たちはフランス語で、私たちは「1km」という単語しか理解できませんでしたが、三角帽子の形の「なにか」を絵に描いてくれたのできっとそれがGîteなのでしょう。あるいはまったく見当違いのことをお互いに話していたのかもしれませんが。

とにかくおばあさんたちの言う通り、森に向かって1km進んでみることにしました。

☆ 教会前にあった巡礼者の像とマイルストーン
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教会前には巡礼者の像とマイルストーンが建っていました。マイルストーンには1000kmの文字が。そのときには分からなかったのですが、ここはサンチアゴ=デ=コンポステーラから1000kmの地点だったようです。

道は森の中に向かってずんずん進み、やがて山の中を流れる川を越えていきました。その先に別れ道があり、おばあさんたちに教えてもらった通り右の道へ進みました。すると道は丘の上の明るい土地へと出て、そこにあったのは……。

三角帽子の形のテント!

おばあさんが描いてくれた絵を見て「今夜の巡礼宿は見つかりそうにないな」なんて失礼なことを言っていたカタリも大いに納得。
だっておばあさんが描いてくれた絵、そのままだったんだもの!
もう、二人で大笑い。

テントの側には数人の人々がいてなにやら話をしていました。どうやらその中の一人がここの管理人のようです。私たちは今夜ここに泊まりたいということを伝え、テントを張れることになりました。キャンプだけれど今夜はシャワーを浴びられます。うれしい。

☆ ムステーの巡礼野営地
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一緒に泊まることになった人たちはおじいさんが1人と、男女のペアが1組その3人はみんなオランダ人で、私たちは5人ともみんな自転車の旅人そしてみんな、巡礼者(ピルグリム)!

ここで出会ったおじいさんはヘリットという名前で、元オルガン奏者。この後の巡礼路で何度となく一緒になって、出会ったり別れたりを繰り返しながら同じ旅路をサンチャゴまで旅することになるんですよ。

こうして私たちは初めて他の巡礼者たちと出会うことになったの。
同じ目的地へと向かって旅をする人々は、見ず知らずの人であってもまるで仲間のように感じる。きっとその感情もまた巡礼路では大切な要素なのだと、巡礼の旅を続けていく中で気付いていくことになります。

☆ 巡礼者たち
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(個人写真掲載のためぼかしを入れています)
左からヘリットおじいさん、カタリ、オランダからの2人。私はカメラマン。

他の3人は小人帽子のテントに泊まったの。
ムステーの教会前には商店があって、私たちは同じ商店に買い出しに出かけ、シャワーを浴び、キッチンで食事をしました。
目的が人それぞれ様々な都会の安宿とは違って、巡礼者たちの共同生活には共通した方向性をもった特別な感覚がある。それが私にとってはとても心地よかったの。

今夜は嵐になるそうです。
テントの張り方、張る場所に気を付けて、自転車をキッチンに入れて準備万端。
今夜はぐっすり眠れそうです。


               ☆明日へつづく

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