Luna
自転車の旅【ポルトガル編6】
ヨーロッパを自転車で旅しました。これはポルトガルの旅路の記録です。
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ポルトガルの旅路「3日目」
Póvoa de Varzim から Porto へ
★ 3日目の道のり
カミーノ=デ=サンチアゴでの巡礼の旅を果たした私たちは、スペイン北西部からポルトガルの北端へ入国しました。かわいらしい刺繍の入ったタオルや、青いタイルに飾られた教会。スペインよりも柔らかい印象を受けるこの国を、大西洋の海沿いに南下してきました。今日はポルトガル第2の都市ポルトを目指します。
☆ 海に張り出した要塞
この日は雨の中の出発でした。でも昨晩は雷が轟くほどの大雨で、きっとテントだったら大変だったと思う。宿に泊まっている間に雨が弱くなってくれてありがたいです。
自転車旅での激しい雨は危険ですからね。
宿を出発してしばらく海岸の道を走ります。
☆ 海岸線
今日はポルトガル第2の町「ポルト(Porto)」を目指します。
旅の行程は40km程度なので、急がずゆっくりと走ります。
フランスからスペインを通ってここに来るまでの巡礼路では、多くの巡礼者たちに出会いました。彼らの中にはフランス方面からポルトガルのポルトまで行く、という人も何人かいました。ポルトまでは巡礼者のための宿「アルベルゲ」があるから、という理由の人も多かったの。もしそうだとしたらポルトから先にアルベルゲはほとんどないのかもしれないわね。
☆ 大きな建物
写真はサンタクララ修道院。1318年に設立された女性修道院だったそうです。
ここでアーヴェ川を越え、一晩お世話になったポヴォアの町を後にします。
☆ Azuraraという町のサンタマリア教会
ポルトの町までの道のりは短い距離だったので、雨の中でも大変なことはありませんでした。きっと午前中のうちには市内に入っていたんだと思う。
大変だったのはそこからなの。大きな町には自転車の乗り入れることのできない自動車道路「モーターウェイ」がたくさん走っているんだけれど、これが難敵。あっちもこっちも乗り入れられない道路が進路を妨げて、私たちが通れるのは町中の小さな道。小さな道は市内の字にあたる町名の案内ばかりだからどっちへ向かえばいいか分からなくなっちゃう。もし私たちが町の詳しい地図やスマホのナビゲーションを使っていたらこんな苦労はなかったのでしょうけれど、私たちはそれらを使わない旅を好んでいるの。だけどやっぱり大きな町への出入りはカタリも私も苦手。バス停にある地図や旅の勘を頼りにポルトの中心を目指します。何度もモーターウェイの行き止まりに遭って、市の外円をグルグル回ってようやく中心地と思われる辺りに到着したころにはお昼をずっと過ぎていました。きっと郊外を抜けるのに2時間以上かかったと思うわ。やれやれです。
☆ やっとの思いでポルト中心地に到着
中心地に来たけれど初めはどこに何があるのか分かりません。現在地を知るためにしばらく市内をうろうろします。
☆ 坂の上の時計塔
坂の上に大きな時計塔がありました。目印になるので、この近辺を探索しながら少しずつ町を知っていきます。
今朝出発した宿でポルト市内の地図をちらっと見たんだけれど、その記憶からカタリが川沿いのホステルの場所を発見したの。時計塔からはずっと離れた場所だったのに、ちらっと見ただけの地図の記憶から分かるなんてすごいな。たくさん旅をしていると「鼻が利く」ようになるんですって。
☆ 川沿い
ポルトの町は一本の川によって南北に分断されています。川の名前はスペイン語ではドゥエロ(El Duero)川、ポルトガル語ではドウロ(O Douro)川・ドール川といいます。この名前はケルト語の水を表す「dwr」という言葉を語源としているそうです。
☆ 対岸
ドウロ川に出てしばらく川沿いを走ると「HI(ホステリングインターナショナル)」の標識が現れました。それに従って丘の道を上がるとポルトのユースホステルがあります。泊まれるといいなあ。
大きな建物で、お客もスタッフもアルベルゲよりずっとたくさんいます。受付でカタリが交渉すると、この宿はめずらしくドミトリー(相部屋)が男女別だったり年齢制限があったりしてちょっと高くなったけれど、泊まれることになりました。やった。
午後はホステルが掃除中になるということで、荷物を置いて市内を観光することにしました。
☆ ポルト市内
ポルトは大きな町でした。駅があって地下鉄があって市バスがあるの。観光地でもあって、たくさんの観光客が楽しそうに歩いている。古くて立派な建物が並んでいて、素敵なお店がいっぱいあって、スーパーやドラッグストアもたくさんある。大きな町。
ポルトの素敵なところはたくさんあって簡単には言い表せないけれど、特に素敵だと感じたのは宗教的な古い建物がたくさん残されていることと、坂道がたくさんあって川があること。坂道がたくさんあると、少し町を歩くだけでも景色がまるで変わって見えてくる。川を見下ろせる急な坂の上に出たり、オレンジ屋根の町が時計塔を中心に丘のように見えたり。いろいろな角度から町を眺めることができて、散歩をすると新鮮な発見に溢れているの。
☆ 駅の構内は青いタイル張り
ポルトの鉄道駅の構内はなんと一面タイル張りだったの。「アズレージョ」という、ポルトガルでよく見かけるあの青いタイル。広い構内の壁がぐるっとタイルで埋め尽くされている様子は、上品な絢爛さが圧倒してくるかのようでした。
私が「わあ」って見事なタイルの装飾に見とれているとき、ふと気が付くとカタリが知らないおじさんとこそこそ話をしていました。後で聞いてみると、おじさんは非合法の葉っぱを売ろうと近づいてきたそうです。私はそれを聞いて怖かったけれど、駅やバスターミナルや市場などではそれほど珍しいことでもないそうで、カタリはさらりとかわしたようです。
☆ ポルトの大聖堂
まるでお城みたいなポルトの大聖堂。ドウロ川を見下ろす丘の上に建っているの。すぐ横に橋が架かっていて、南へ行くにはその橋を渡って出発することになります。でもそれはあさっての話。私たちはこの町に明日も滞在することにしたの。だってまだまだ見て回りたいところがたくさんありそうなんだもの。
☆ 大聖堂内
一人の女性が聖堂の前で声をかけてきました。耳が不自由だから恵んでほしいと言うのです。手には寄付をしてくれた人たちの名前と寄付の額が書かれたリストを持っていて、それを私たちに見せて10€を施すべきだと言いました。私たちは旅先で物乞いの人を見かけたらいくらかのお金や食べ物を渡すようにしてきましたし、お世話になった場所に寄付金箱があれば寄付をするようにしてきました。私はカタリを見て、10€を財布から出すものだと思っていましたが、カタリはそうしませんでした。女性は断られてもリストを見せながら何度も訴えてきました。それでもカタリはお金を渡しませんでした。
振りほどくように女性から離れた後、私はどうしてお金をあげなかったのかカタリに尋ねました。女性が困ってしまうのではないかと心配でした。カタリは言いました。「あの女性は音が聞こえていたし、そこまで困っているわけじゃない。はっきり言ってしまえば、あれは彼女の嘘だ」と。カタリが言うのだから、きっとそうなのでしょう。
私は女性に嘘をつかれていたのだと知って、胸を撫でおろしました。あの女性は困っていない。あの人は大丈夫なんだ、って。
次の日に宿で出会うことになる巡礼の男性もこの女性に出会っていて、「大聖堂の前にいる耳が不自由だというあの女性は本当に困っている物乞いじゃない。旅人を騙そうとするジプシーだ」と言っていました。旅慣れた人たちにとってはすぐに見抜くことができるみたい。
困っていなくて良かった。
☆ ポルトの街並み
大聖堂の高台から町を見渡すと、オレンジ屋根の街並みと、家々の青いタイル張りの壁が見えます。丘のように高くなった場所がいくつもあって、見る位置によって様々な姿を見せてくれます。そしてここは河口の港町でもあって、海も川も船が行き交っていて賑わっています。そんな運送の便の良い場所なので、市内には様々な品物が出入りして市場も賑わいます。それは今に始まったことではなくて、きっと昔からずっとそうだったに違いないわね。
☆ 大聖堂前のインフォメーションセンター
ポルトの町は大きいから、いくつかのインフォメーションセンターがあるの。ここ大聖堂の前のインフォメーションセンターは昔の建物をそのまま利用しているみたい。まるで砦みたいでおもしろい。
私たちはポルトで観光なんかをしてゆっくり過ごすつもりでいます。でもその後のことは「風が吹いたら決めよう」と計画は立てていません。でもここ数日よく名前を耳にするようになった村があります。ファティマです。風の噂ではファティマ村は天使出現の奇跡が起きた村で、今では聖地として世界中から人々が集まる場所だということでした。聖地サンチアゴにカミーノ巡礼路。そして奇跡の地ファティマ。なんだか「道の続き」を感じます。噂を運んだのが風ならば、これは風が吹いたのかもしれないね、とカタリと話して笑い合いました。
☆ 左:サンチアゴ 右:ファティマ
ファティマという名前は私もカタリもずっと前から知っていました。それは村の名前としてではなく、私たちの愛読書『アルケミスト』に出てくる少女の名前です。主人公の少年の名前はサンチャゴ(サンチアゴ)と言い、少年が初めに到着し、新しい旅の出発地となる町はタリファでした。少年サンチャゴは少女ファティマと出会い、彼女こそ本当の宝物だと知ります。私たちは巡礼路を旅し、サンチャゴ・デ・コンポステーラに辿り着きました。そしてファティマを目指し、今回の旅の終着地点は(このときはまだ決まっていませんでしたが)タリファです。
なんだか運命を感じます。私たちはこの土地を目指してやって来たのではなく、アイルランドから旅をしてきてたまたま巡礼路に出会ったのです。今になって思えば、私たちがファティマに行くのは、朝になると太陽が昇ることと同じくらい自然なことのように思われます。でもこのときはまだ、風の吹くまま気の向くまま、私たちは目の前にある大きな町の休日をどう楽しむかということで心がいっぱいでした。
宿に戻ると早速買い物をして、ごちそうを作りました。明日は休日。一日ポルトの素敵な町を観光します。
★ 明日へつづく ★
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★ 昨日の日記 ★
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