Mira&Luna's nursery lab

旅乙女と発明娘の子供部屋

ランドの森を抜けて 広くて静かなフランスの田舎道の旅

フランスを自転車で旅します。f:id:miraluna:20200521165654j:plain:w220
                             現在地
<15日目>

Luna

巡礼者ピルグリムとなった私たちはボルドーのお墓の宿を出発し、巡礼路の旅へと出発しました。何度か時雨にもあったけれどやがて雲間から光が射し、美しいランドの森を進みます。調べておいた巡礼宿は主がバカンスに行ってしまっていたので泊まれず。仕方なく先へと進んだ私たちが辿り着いたのはムステーという小さな村。運良くその村の巡礼宿に泊まれることになり、初めて他の巡礼者たちと出会うことになったの。

☆ ムステーからダックスへ
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夜は大変だったの。
話に聞いていた通り天気が荒れて、雨が1~2時間降りました。そのうち激しい雨は数十分だったのだけれど、それがとっても激しかった。
昨日の夜、私たち巡礼者たちは全員自転車をキッチン小屋に運び入れたの。みんな自転車旅だったから、守るものは同じ。ヘリットおじいさんと二人組は三角屋根のテントに泊まったので、嵐に対して特別な対策はしなかったみたい。私たちはいつものテントを張ったので、水対策をしっかりとしました。

1.水の流れや溜まりができなさそうな、水はけのよい場所に張る。
 小高くなった砂地に張りました。水はけはかなり良さそう。
2.張綱をしっかりと張って、フライとテントの間に隙間をつくる。
 フライがテントに張り付くと、そこからじわじわと濡れてしまいます。風が吹くとフライとテントが接触して貼り付きやすいので、張綱を固く張ります。
3.荷物の下にビニールの袋などを敷き、床面を防水にする。
 きっとテントの下まで水が来るでしょうから、荷物が濡れないようにします。

ここまで水対策をしました。準備万端! と、思っていたのに……。

嵐は想像以上に激しいものでした。夜中、大雨の音に心配になってテントの底を触ると、2cmほどの水没。これでは荷物の防水も効きません。エアマットの上に縮こまってシュラフを抱きかかえます。カタリは寝袋の端を濡らしてしまったようです。真っ暗なテントの中、隣で「油断した」という声が聞こえました。やがて2.5cmくらいの高さのあるエアマットも、足元のほうが水没しました。張る場所も張り方も悪くはなかったはずです。土地の吸水能力を上回る水量だったのです。私たちはエアマットの上のほうに小さく縮こまって、まるで小さな生き物が身を隠すようにしてじっと雨の過ぎるのを待ちました。

雨は10分ほどで普通の雨の水量へと変わり、5分ほどで水没は引きました。まるで砂浜並みの吸水能力です。それでも荷物を濡らすことになってしまいました。
準備は万端だと思っていましたが、まだまだ甘かったようです。私たちはもっと警戒して、テントの周りに側溝を掘るべきでした。ボーイスカウト創始者ベーデン=パウエルさんは言いました。「備えよ常に」。私たちにはまだまだ学ぶべきことがたくさんありますね。

☆ ムステーの古い教会
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朝になると雨は止んでいて、私たち巡礼者たちはキッチン小屋でゆっくりと朝食とコーヒーと会話を楽しみました。
他のみんなが泊まった三角帽子のテントは頑丈で、雨はまるで問題なかったみたい。でもテントのてっぺんに風を入れる穴があって、そこから雨水が漏れてきたって言っていたわ。

旅の支度をして、それぞれ宿営地を出発。
村の教会で早速オランダからの二人組と再会。お互い、朝のお祈りに寄ったのです。彼らとはそれが最後の出会いとなりました。

☆ 雨上がりのランドの森
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ムステー村を出発して、細い田舎道を南下します。
この日目指すのはダックス(Dax)という少し大きめな町。

☆森と草原と畑の土地
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昨夜の大雨が過ぎ去って、気持ちの良い天気になりました。
でも厚い雲が所々にあって、あちらこちらで局所的な時雨を降らせています。土地が広いので、遠くで雨が降っているのが目で見てわかる。直径1~2kmくらいと思われる狭い地域で、所々激しく降っているみたい。道路もびしょ濡れの場所と乾いた場所があって、もうもうと湯気を立てて雨が蒸発する様子や空気の匂いや湿度などからその激しさが想像されます。

運の良いことに私たちはあまり時雨に遭わず、何度か降られたときには木の陰などに隠れることができてほとんど被害を受けずにすみました。ありがたいことです。

☆ 村の橋は花で飾られている
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広い土地。雲の影に入るといっぺんに暗くなります。
雨に降られませんように。
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☆ 右手には低い森、左手には広い平原。その間の道を走ります。
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森の入口なんかにはよくラズベリーの茂みがあるの。このときも休憩の度にラズベリーを見つけて摘んでは食べた。若い実は甘酸っぱくて、完熟した実はとっても甘いの。この森の入口にはストロベリーも自生していました。
素敵な道だったな。

☆ おっきな機械たち
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畑には大きな機械たちがずらっと並んで仕事をしているのを時々見かけたの。上の写真は遠くのほうまでずらっと並んだスプリンクラーね。それとも種まき機? 自走式なのかな。日本ではあまり見かけない光景だから、天空の城ラピュタに出てくるような「古代機械文明の遺産」と言われたらそんなふうに思えてきちゃいそう。

☆ 有機と無機のコントラスト
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一緒に旅をしている保護者のカタリは上の写真のようなコントラストに興味をもちます。
これは広い森の中の道にぽつんとあった、人のいない工場か栽培用ハウスかなにか。
カタリに言わせれば「悠大な自然の中にある整然とした人工物」とか「有機的で雑然とした中にある無機的で機械的なもの」に特別な魅力を感じるのだとか。私の付き添いでミネラルフェア(石のマーケット)に行くと、いつも「母岩付きパイライト」を手に取ります。きっと同じ魅力を感じているのでしょう。いつか母岩付きのパイライトを買おうと思っています。

☆ 人の姿のない鉄道が森の中を走る
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この日はほとんど車も人もいない細い道を走り続けました。森の中を通る鉄道とその陸橋や、畑の巨大な機械群や、どこまでも続く広大な平原に動く物を見かけません。まるで私たち以外には誰もいないかのような、シュールで奇妙な印象を受ける旅路でした。
静かで穏やかな、フランスの田舎道の旅です。

☆ 町の中心には教会がある
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フランスの町の中心には教会と広場があるのがほとんどで、教会の尖塔は遠くからでも見つけることができます。

☆ 昔風の家
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木組みと漆喰の壁とレンガの瓦屋根。
昔ながらのスタイルの家が残っています。

☆ フランスの田舎
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フランスはパリの華やかなイメージがあるけれど、国土の広さと人口と農業の割合を見れば、この国が広い広い農業国だということが分かります。
都市部はほんの一握りで、観光地も夏の避暑地もほんの一部で、その多くは広大で穏やかな畑地帯です。
そんなフランスの田舎道を、私たちは自転車で旅していきます。

☆ DAXの大聖堂
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ついにダックスの町に到着しました。
この町には巡礼宿があるはずなのですが、どうやって見つけたらよいかわかりません。
まずは町の中心にある大聖堂へ行ってみることにしました。

聖堂の中には教会のオフィスのような部屋があって、その辺りをうろうろしていると神父さんらしき人が来たので声をかけました。神父さんは私たちを優しく部屋に迎え入れてくれて、巡礼者の証にスタンプを押してくれました。巡礼宿について尋ねると、神父さんはこの町に赴任してきたばかりで宿のことまでは分からないそうです。

☆ 大聖堂内
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大聖堂の入口には物乞いの青年が座っていて、カタリがその青年にいくらかのお金を渡したあと、二人はすぐに打ち解けて仲良くなりました。モルドバから来たそうで、英語は話さなかったので身振り手振りで話をしていました。私たちは旅の幸運を願ってもらい、宿のあてのないまま出発しました。

するとすぐにツーリストインフォメーションセンターを発見しました。中に入るとお姉さんが巡礼者の証にスタンプを押してくれた上、巡礼宿の場所も教えてくれました。

もらった地図を頼りにそこへ行ってみると、普通の民家のようで巡礼宿のようには見えません。カタリが通りかかった人たちに道を尋ねたけれどみんな知りませんでした。どうしようかと丘の上の教会へと自転車を押していくと、なんと隣のブロックの土地に巡礼の看板が掛けられているではないですか。土地の中には矢印も掲げられています。どうやら地図の印が1ブロックずれていたみたい。

ありました! 巡礼宿。
どきどきしながら中へと入ると、何人もの人がいます。その中には昨夜一緒だった気の良いヘリットおじいさんの姿も! うれしい!

☆ ダックスの巡礼宿
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庭を横切って建物の中に入ると、穏やかで優しい話し方をするおばあさんがいました。私たちが今夜泊まりたいという話をすると、なんと今夜はベッドがいっぱいで泊まれないそうです。そんなあ……。
でもすかさずカタリが「庭にテントを張らせてくれ」と言うと快諾してくれました。良かった……。
おばあさんがすぐに家に帰ろうとしたので、カタリが慌てて引き留めて今夜の宿代を払いたいと申し出ると、おばあさんは「とんでもない」と首を振りました。この宿は巡礼者なら無料で宿泊することができて、キッチンにあるものは飲んだり食べたりしてもいいし、キッチンも自由に使っていいということでした。それにシャワーも。「もしあなた方が支払いを望むのならば、寄付箱があるからそこに入れることもできるわよ」と言っておばあさんは自宅へと帰っていきました。ヘリットおじいさんが「ここなら快適に休むことができるぞ。それも良い料金で」と言っていたのはこのことだったのね。
カタリはそのあと2人分の心付けを寄付箱に入れていました。


私たちは庭にテントを張って、食糧を買いに出かけました。巡礼者たちはそれぞれ買い出しに出かけるので、スーパーの場所はお互いに情報を伝えあってすぐに分かりました。
私たちはアジア系のボルドーに住む父子とたくさん話をしました。
他の巡礼者の子どもたちと駆け回って遊んでいた息子さんは12歳で、とても活発で利発なの。私たちが日本語のあいさつなんかを言うと、一回で全部覚えちゃう。日本のまんがも読んでいるそうです。お父さんとしてはまんがやゲームから息子さんを遠ざけたいらしく、外で大いに冒険してほしいそうです。
私たちは宿の子どもたちのためにクッキーを一箱買ってきて振舞いました。みんな丁寧にお礼を言いに来ていい子たち。私たちはボルドーの父子ポールとクレメンに「出前一丁」のインスタントラーメンをもらいました。
今夜もテントだけれど巡礼宿に泊まることができて、シャワーも浴びることができて、旅の一日の素敵な終日となりました


               ☆明日へつづく

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