Mira&Luna's nursery lab

旅乙女と発明娘の子供部屋

129600°

f:id:miraluna:20190724182440j:plain:w100 Luna f:id:miraluna:20180806220931j:plain:w80 Mira

ルナ
旅人は月に言いました。
「この道は僕が選んだ道なんだ。
とってもお気に入りの道で、毎日歩いている。

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この道まで辿り着くのに大変な苦労をしてきたんだ。
別の旅仲間にとっては、幼い頃からなじみ深い大事な場所らしい。
だから今ではこの道から一歩も外れたりはしないんだって。
歩いていると花が咲いていたり、小さな生き物が出てきたり、道の仲間と一緒に笑い転げるようなことだって起きるんだ。
素敵な道なんだよ。」

旅人は続けます。
「でもどういうわけか、そんな道を毎日歩くのが少し苦しいときがある。

とても素敵でお気に入りの道なんだけど、一歩が重いんだ。
もっと大変なときもたまにあって、
道だけじゃなく辺り一面が凍えて見えてしまうようなときさえある。
そんなのっておかしいよな。こんなに豊かな場所なのに。」

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旅人の話を静かに聞いていた月は、言いました。
「おかしくなんかないわ。
だって、歩くことは苦しいことだもの。」

旅人の足元に咲いていたミスミソウも言いました。
「誰にとっても、どこにいても、お腹は空くし歩くの辛い。
痛いことないのに痛いと思ったり、苦しいことなんかないのに苦しくて仕方なかったり。結構よくある。
それって普通よ。人は誰でもみんな、時と部分によってHSP(Highly sensitive person)なの。」

月は旅人に優しく言いました。
「どこへ行っても辺りは危険な岩や棘に溢れている。それは間違いありません。
ときどき途方もなく心ががらんとしてしまうことがある。どうにも手に負えないほどに。それは誰にでも起きていることです。

でもその道が一本の道でしかない、と思うのは誤解ですよ。

道はいくつもの道に分岐している。
それどころか360°どこへだって行ける。いいえ、上下を併せれば360°x360°、129600°どこへだって行ける。
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どこへだって行けるの。
だってあなたは旅人でしょう。」

月はこうも言いました。
「疲れたときには腰を下ろして休んでいいのです。
豊かな道の中で恐怖を感じたり息苦しさを感じたりすることは、ミスミソウの言うように人が生涯心に負うものです。
一見普通の表情で歩いている人たちの中には、あなたと同じように重い一歩を踏み出している人もたくさんいます。
人生の四大苦は『生老病死』。まず『生きる』ことが苦しみなの。
苦しいものなのよ。
この美しい世界は。
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あなたはどちらへ向かって歩くこともできる。
どんな歩き方もできる。結果への覚悟も含めて、
どこへだって行けるのよ。」
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足元でミスミソウが言いました。
「この道を歩き続けたっていい。
そこの石にしばらくじっと座っていてもいい。」

旅人はいつからか石の上に下ろしていた腰を上げ、辺りを見回しました。
「広いな。」
              おしまい


ミラ)「変なお話。でもちょっと心地いい」