Mira&Luna's nursery lab

旅乙女と発明娘の子供部屋

梅雨入りはまだだけど。雨の多い季節には紅茶と物語を。☕📚 「ミラが主人公の物語」

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晴耕雨読に憧れます。
☔雨の日には紅茶☕と読書📗を。


🌼 白い紫陽花
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Luna
最近暑いですね。今年の梅雨入りは東海まではとても早かったそうですが、関東はまだです。平年では6月7日くらいだそうで、今年は関東以北の梅雨入りが遅いみたい。でも、そろそろかな。

雨の日の休日は、皆さんどう過ごしますか?
今は雨でなくてもあまり外出しないから家での過ごし方は様々工夫されているでしょうけれど。
カタリが旅先で出会った農家の方で「晴耕雨読」の生活を掲げている方がいらして、雨の日に読書をする魅力を教わりました。だから私は雨の日に読書をするのが好き。本を読むだけではなくて、誰かからお話を聴くのも好き。その人の経験してきた冒険譚でも、この世界とはちょっとずれたノンセンスファンタジーでも、子供向けの詩(Nursery Rhyme)でも。テムズ川の舟遊びでドジソンさんがアリスたちに話してくれたように、私も誰かの物語を聴きたい。
というわけで今回の記事では物語を聴かせてくれるゲストの蛙、茶色の蝦蟇さんに登場してもらいましょう。


📚 ルイス・キャロル著『スナーク狩り』  📚 『アリス物語』(国会図書館復刻版)
                  



🐸 好奇心に満ちた眼差しの茶色の蝦蟇(がま)さん
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彼は茶色い蝦蟇蛙。人間でいうとおじいさんに近い年齢なんだけど、とっても好奇心旺盛でお話し好き。若い頃には蝦蟇の穂筏(がまのほいかだ)で沢下りをしたり、故郷の山の山頂まで登ったり、仲間と海を見に行ったり、数々の冒険をしてきた人(蛙)。まるでムーミンパパみたい。
そんな茶色の蝦蟇さんに、なんとミラを主人公にした創作物語を聴かせてもらいました。さあミラf:id:miraluna:20210106121720j:plain:w50、紅茶を淹れるからはんだごてを置いて、蝦蟇さんのお話を一緒に聴きましょう。


📚 「がまのほいかだ」の登場する
   『むるとめるのぼうけん』      📚 『ムーミンパパの思い出』
                



📚 茶色の蝦蟇さんのお話

   「森のタルトは環の形をしている」

 森の奥には、日常とはかけ離された異質な存在があると思うんだ。普段の、テレビや学校や職場やスーパーや流行の曲とは遠く離れた、ずっと昔からそこに存在して日常とはつながりをもたないような、そんな異質なものがあると思うんだ。
 森というものがそもそも独特な世界をもっている。ありとあらゆる雑多な生き物たちでひしめいていて、右も左も、前も後ろも、そして上も下も、どちらの方向へも複雑多岐に広がっていて、それでいてまったく同じというような単調な部分はひとつもない。どこもかしこもオリジナルな結びつき方をしている。それが上にも下にも四方八方広がった「混みいった」空間として、足を踏み入れるものを包み込む。まるで細胞のひとつだった頃を思い出すような、宇宙の一点だった頃を思い出すような、原始的で、生理的な、「有機的」つながりそのものを表現するような「一塊」ではないか。その奥には、時の流れの表面的な変化などには無頓着な、はるか古代から変わることなく存在しているような、そんな異質なものがあると思う。いや、異質なのは時の流れによって表面的に削られていった我々のほうなのか。
 ミラが見たものは、ステンドグラスのような七色に彩られた光だった。それはきっとステンドグラスのような光ではなく、ステンドグラスそのものだったに違いない。そこには木造の家。物静かな佇まいで、森の奥の広場に建っている。喫茶屋だろうか。小物屋だろうか。あるいは民家だろうか。辺りは静まり返っていて、家の中からは物音ひとつしない。
 人は非日常の中に不意に身を置いたとき、自身も非日常的な行動をとるだろうか? いやむしろ、生まれてから今まで自分の中で培ってきた常識や日常的センスに従おうとするのではないだろうか。従うどころか、その枠の中にぎゅっと身を縮めて、頑なにその枠を守ろうとするのではないだろうか。信条を崩されないために異質なものを遠ざけようとするような、そんな防衛的な行動を、人はとることがある。しかし、ミラは違った。ミラには今まで培ってきたセンスが崩壊するという恐怖はなかった。そのセンスがないと日常生活で困ってしまうだろうというような懸念もなかった。むしろ古いものを崩壊させようとする好奇心にあふれていて、その意図の源は、崩壊させた後により多くの経験を取り込んだ新しいセンスを作り上げようとする意志だった。それはすなわちミラのセンスが成長途上にあることを意味する。つまりミラは、子供なのだ。
 木造りの入口ポーチに上がると、ドアに「OPEN」の札が掛かっていることに気が付いた。やはりなにかのお店なのだ。ドアの右手には七色の窓。ラベンダーをくわえた鳩が羽ばたいている絵がステンドグラスで描かれている。木造りのドアにも楕円の飾り窓。やはり七色をしている。把手は曲がった樫の枝をそのまま取り付けたものだ。そのざらざらとした感触の把手を握り、ドアを開けた。
 店の中は思っていたよりも広く感じられた。きっと、小部屋に仕切られていなく、家具も多くないからだろう。奥の大窓から一段低くなったホールに光がたくさん入って、木のオレンジ色の光沢が暖かい印象を与えている。開かれたキッチンカウンターの向こうには、誰かいるようだ。ミラはこの店のもつ、今までなじみのない感覚にしばらくぼうと立っていた。
「あらポプリ、おかえり」
 キッチンの奥にいた人物がホールに出てきて、不意に声をかけた。
「今日は早いのね」
 眼鏡をかけた細身のその女性は、ミラをはっきりと見ていたが、人違いに気付いて驚くでも、訝しそうに眼鏡をずらすでもなく、確かにミラを認めて、そうしてからポプリと呼んだ。
「あの、こんにちは。でも、私、ミラといいます」
 ミラの言葉に女性は表情を変えるでもなく、にこりと微笑んだままミラをテーブルへと促した。
「そう、あなたの名前はミラというのね、ポプリ。そんな日も、あるかもしれないわね。私は弥生。知ってるでしょうけれど」
 もしミラの記憶に何かしらの重大な歪みが生まれていなければ、ミラがこの女性に会うのは初めてだった。ミラはテーブルの前の、重々しい木の椅子に座った。
「私、ポプリと呼ばれるのは初めてだわ。もし、私が忘れてしまっているだけならば、とっても不躾だけれど、やっぱり私、あなたに会うのは初めてだと思うの」
 女性は「そう」と一言言って、嬉しそうな表情のまま、テーブルの上をセットした。
「シナモンアップルティーを新しく作ったの。どう?」
 ミラは黙って頷いた。なんだか不思議な感じで理にかなっていないようだったが、女性の嬉しそうな微笑のせいだろうか、とても居心地が良く感じられた。
 しばらく、待った。キッチンの奥では女性が湯を沸かしたり皿を用意したりする音がしていた。女性は何も言わなかったが、上機嫌な様子が伝わってきた。どうやら女性が上機嫌なのは、ミラがここにいるからのようだった。ミラもなんだか、浮かれ心地になった。女性が銀のトレイで運んできたのは、紅茶のポットとソーサーとカップ、それからタルトの載った皿だった。
「こないだあなたと摘んだクランベリー、ジャムにしたの。その上に載ってるのは私が今朝摘んだ木苺よ。どうぞ」
 ミラはご馳走を前に心躍ったが、女性の言葉に不安になった。やはりこの女性はミラをポプリという女の子と勘違いしているのだろうか。女性と一緒にクランベリーを摘んだ記憶がない。だとしたらこのタルトはポプリという子のものであって、それを横取りすることになってしまうのではないだろうか。
「あの、弥生さん。私、あなたと一緒にクランベリーを摘んだことはないと思うの。もし、これが私の覚え違いだとすれば、あなたにとても失礼だけれど……」
「大丈夫」女性は眼鏡の向こうの目元をほころばせた。「あなたが言っているのは、私たちはまだ一緒にクランベリーを摘んでいない、っていうことでしょう? だったら、お茶を飲んだら一緒に摘みに行きましょう。三日前に摘んだか、五日前に摘んだか、それが問題でないように、食べる前に摘んだか、食べた後に摘んだかは、問題ではないわ。大事なのは、一緒にクランベリーを摘んだかどうかよ」
「それならば問題だわ。だって、これから摘むのなら、摘んだことにはならないもの」
「それも大丈夫。今からすれば摘んだことにはならなくても、摘んでしまえばそのときには摘んだことになっているから。だからほら、お茶を飲んだらすぐにでかけましょう」
 タルトは弥生の分もあった。弥生が焦らないようにと言うので、二人はじっくりとシナモンアップルティーとベリータルトを味わってから出かけることとなった。お茶もお菓子も、夢のような味がした。
 二人は裏口から外に出て、森の奥を目指した。弥生は薪小屋から、籐で編んだ籠と、なぜか魔女がもつような箒を持ってきた。弥生はエプロンを外用の物に替えて、頭には布を巻いている。
 森は、とても深かった。どこまでもどこまでも複雑雑多な生命がひしめいていて、それがまるでひとつの大きな意思をもった生命体のようでもあった。二人ははぐれないようにぴったりと体を寄せ合うようにして森の中を進んだが、それでもやはり無数に枝分かれし、繁茂した生き物たちの旺盛な多様さによって安易にお互いを見失ってしまう。ミラは弥生の手をしっかりと握っていたが、弥生の腕は枝々や木々に絡め取られ、引き込まれ、やがてミラの手をするりと滑って遠い木々の向こうへと見えなくなってしまった。ミラは四方八方から迫ってくるような圧倒的な生命の繁雑さにむせ返り、息苦しくなり、それでも前へ進まなくては飲み込まれてしまうような気がして、立ち止まらずに無我夢中で歩いた。
 突然辺りの圧迫した世界は終わり、古い池の前に辺りが開けた。まるで大音量のオーケストラのなかから、不意に静かな夕暮れ時の草原に出たかのようだった。池の周りは湿地になっていて、歩くと水に沈み込む黄色い苔に囲まれている。苔の中には食虫植物が口を開いていて、その周りには羽化したヤゴの抜け殻が無数に残っていた。クランベリーは、その池の中に鮮やかな赤を映してたくさん実っていた。ミラは靴を脱いで裸足になり、食虫植物とヤゴの抜け殻を踏みしめながら、沈む苔に足を浸して池の中へと進んだ。クランベリーは鮮やかな赤い色をしていた。森と、苔と、古い水との、この静まり返った褐色の世界に、まるで挑発するように鮮やかな赤い色が映えていた。その赤に魔法をかけられたように夢中で実を摘んだ。片手で靴を持ち、片手でベリーを掴んではドレスのポケットに突っ込んだ。池の水がポケットに入れたクランベリーから体に染み込んできて、あちこちびしょ濡れになった。それでもミラは夢中でベリーの実を摘んだ。
 森を抜け、店に戻ることができたのは不思議なことだった。それでもミラは店に戻ることができ、店は出てきたときと同じように静かにそこに建っていた。ドアを開けると室内用のエプロンをつけた弥生がいた。
「おかえり、ポプリ」キッチンカウンターの上には籐で編んだ籠にたくさんクランベリーが入っている。
「ポプリったら箒も使わずに夢中で池に入るんだもの。おかげでたくさん摘めたわね」
 どういうわけか、ミラは弥生と一緒にクランベリーを摘んだようだ。
「これで、クランベリーのジャムを作ることができるわ。そうしたらきっと、あなたは初めてここへ来たというふうに店に入ってくるのでしょうね、ミラ。そのときあなたはポプリではなくて、自分のことをミラだと言うでしょう。そして私たちはシナモンアップルティーを飲むの」
 ああ、そういうことか。と、一瞬だけ、ミラはすべてを理解したような気がした。


蝦蟇さん。おもしろいお話をありがとう。
なんだか不思議な感じのする物語でした。
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ルナ

ありがとう蝦蟇さん。自分が主人公の物語って、なんだかちょっと
くすぐったい感じ。「ミラは子どもなのだ」っていうところ以外は
気に入ったわ。
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     ミラ

ルナ)以前に”菫色の蛙”「偏屈なヴァイオレット」さんにもお話をしてもらったけど、やっぱりちょっとシュールで不思議な感じだった。蛙さんたちのお話って、みんなこんな感じなのかな?
ミラ)ルナ、今日のおやつはタルトにしない?
ルナ)うん。私もそうしたらいいな、って思ってた。今から焼こうか。
ミラ)焼こう焼こう。

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miraluna.hatenablog.com


<おすすめの本>
📚 『若草物語』  📚 『たけくらべ』 📚 『アルケミスト』  📚 『モモ』
       


紫陽花の季節には☕と📚を。あと🍰も。
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